郷に入れば郷に従え。
Do in Rome as the Romans do(ローマではローマ人のように振舞え)。
マクドナルドは今や世界120カ国で展開するグローバル企業であって、メニューもある程度、国際規格化されている。だが、気候や文化、風習や宗教が違うだけで、そこに住む人の考え方や嗜好が違うように、マクドナルドも当然ながら地域差が生じている。
日本国内では西と東で、マックやマクド、マクドナルドと呼び方が違うのも、比較文化研究の一部ととらえてもいいだろうし、事実、日本限定のメニュー戦略は他国と大きく違う点でもある。
以前、ウィキトラベルで書いたマクドナルドの魅力について、上手く端的にまとまっているので転記する。
マクドナルドのメニューは世界中で一応規格化されているため(「一応」の意味は後で述べる)、どこで食べても大体想像と違わないものが出てくるし、特に途上国などでは衛生管理が確実に行き届いている、安心して口に運ぶことのできる数少ないレストランの一つでもある。このようなことから、誰しも海外に旅行に出かけたときに、一度はマクドナルドにお世話になった(あるいはどこで食べるか考える際の選択肢の一つに入れた)くらいの経験は持ち合わせているのではないだろうか。
マクドナルドは世界各地の至る所にあり、どこの国でも人の集まる広場や駅の近く、郊外の国道沿いなど、同じようなロケーションに同じようなデザインの店を構え、同じような営業スタイルで同じようなメニューを出している…、一見すれば。ただし、よく見てみると、それぞれの国にあるマクドナルドに、その国の文化や宗教、食習慣、風習、政治、経済等々の影響を受けている部分を見つけることができ、これがなかなか興味深い。
例えば世界中の川に架かる橋、網の目のように張り巡らされた各国の鉄道、世界各地の保存食、お茶やコーヒー等々、世界のどこにでもあるようなもので、旅の途上に楽しむ「比較文化」の対象になり得るものは、マクドナルド以外にも多数存在する。このような中で、何故マクドナルドを旅のテーマとしてあえて取り上げるか、その理由を以下にざっと述べてみたい。
- 地域的な広がりを持っている。
- 例えば日本と中国、あるいは台湾の吉野家にあるメニューを比較して、文化の違いを探るということもできなくはない(実際国によってメニューや店のスタイルなどが多少異なっている)が、吉野家のようなケースだと、世界規模で見た場合、今一つ地域的な広がりに欠ける。その点、マクドナルドは世界中に事業展開しているので、より広い地域を対象にした比較が可能である。
- 一定程度規格化・標準化されている。
- さすがにマクドナルドそのもののブランドイメージというものもあるため、それぞれの国のマクドナルドが独特の進化を遂げ、お互いの国で見分けがつかないくらい変容を遂げてしまっている、ということはまずない。ゴールデンアーチ型のMの字を使ったロゴや大きさや内容が規格化されたハンバーガー、赤と白の横縞のシャツに黄色のつなぎのようなズボンと靴という定番のいでたちで客を迎えてくれるマクドナルドのマスコット「ドナルド」など、世界のどこで利用しても、ある程度までは共通化された、いわば比較の上での「ものさし」となりうる部分を持ち備えている。
- 規格化された中での差異を楽しむことができる。
- それら一定の枠がある中で、国や地域によっては、その土地の文化や習慣、制度などの影響で世界標準から少しはみ出してしまった部分を垣間見ることができ、その差異が言ってみれば比較や興味の対象となりうる。
- 日本では既に当たり前の存在。
- 1971(昭和46)年、銀座にマクドナルドの1号店が開店してから既に40年あまり、全国に4,000店近くの店を構えるまでに普及したマクドナルドは、もはや我々にとってみれば空気みたいに当たり前の存在となっている。個々の店舗を見れば、デザインなどは店ごとに異なった面も持ち合わせているが、我々の中には「マクドナルド」と聞いて誰もが思い浮かべるような、ある種ステレオタイプ的な一定のイメージが出来上がっており、少なくとも日本人の間でそういったイメージを共有することができる。そのような土壌がある中で、我々の持っているイメージとは多少異なる外国のマクドナルドとの違いを論じることで、日本人同士が旅の途上などで盛り上がる話題とすることができる。
- 海外でもマクドナルドを利用する日本人が多い。
- 海外である程度の滞在日数が経過すると、口慣れしていない現地の食事にうんざりしてくることもあるだろう。その点、マクドナルドなら日本にもあるという事で、味やメニューの差異、注文の方法などの多少の差異はあったとしても、そんなに外れている事も無く安心して利用でき、ちょっとした口直しという意味でもちょうど良い。そんな事情も手伝って、海外旅行に出かけた先でマクドナルドを利用する日本人旅行者もたくさんいる。つまり、海外での「マクドナルド異文化体験」を持つ日本人は意外と多いわけで、上記同様、このような人たちや、あるいは単に異文化に興味を持つ人たちとの間で、海外のマクドナルドが話ネタとして結構使えるのである(海外のマクドナルドでネット検索すると、日本語でも旅行好きの人たちのブログなどを中心に、結構いろいろなページが引っ掛かることからもそのことが伺える)。
- 根っこが一つである。
- 例えば橋や建築物などは、人類が生活に必要なアイテムとして、世界各地で同じような機能の構造物をそれぞれ独自に発達させてきたものと言えるだろう。それ故に地域が違ってしまえばそれぞれがもともと似て非なるものであるともいえるし、また、世界各地の家なり橋なりの源流をそれぞれたどっていったところで、究極的に一つの家や橋にたどり着くわけではない。その点、世界各地のマクドナルドは、その源流をたどっていけば、どれもが1940年にアメリカ合衆国カリフォルニア州サンバーナーディノでマクドナルド兄弟が始めた店舗にたどり着く。つまり、20世紀前半にアメリカで始まった一軒のハンバーガー屋が、その後世界各地でそれぞれの土地の文化や風習などに触れつつ、どのように変容し発展を遂げたのかを、世界各地を旅行する度ごとに、実際に自分の目で見て体験することができるのである。
解りやすい例として、自分が訪れたマクドナルドの写真を何点か上げておく。
フロリダ、ダウンタウンディズニー内のマクドナルド外装。両社ともアメリカを代表する企業であり、セットで店舗を構えるケースが多い。日本では考えられないが、ディズニーのパーク内にもマクドナルドの店舗は存在する。存在しないのは東京だけだが、マクドナルドがオフィシャルレストランやスポンサー介入していないのも原因の一つ。
http://www.tokyodisneyresort.co.jp/tdr/company.html
こちらは同じアメリカ内でもハワイ州ホノルルのマクドナルドのメニュー。セットを頼むと、否応無しにパイナップルが無料で付いて来た。2005年当時の“yakaniku sand”のようなネーミングのメニューだったが記録なし。写真では分り辛いが、ポテトとドリンクのサイズは日本Lサイズの倍近くある。
スイス、マッターホルンの玄関口、ツェルマット店の内装にある壁絵。槍のように立派にそびえ立つマッターホルンと、ヴァリス地方独特のネズミ返し付きの高床式穀物倉庫を背景に、意気揚々としたドナルドが描かれている。ヨーロッパの観光地では、度々こうした現地の名物とともにペイントされることが多い。
北欧スウェーデン、ストックホルムの店舗内の飲み残しごみ箱。さすがに北欧だけあってデザインがいちいち秀逸。奥に日本の扇子があるように、インテリアや内装の配色にもこだわりをみせているようで、食べる以外の空間演出が個人的には心地がよかった。現在では、ドリンクカップやソファーも専用にデザインされた店舗もあるようだ。